立花隆さん「死後の世界」(2)

 臨死体験というものがあります。事故や病気で死に瀕した人が、意識を取り戻した後に語る不思議な視覚体験です。「まず、体外離脱し、そのまま心はトンネルを抜けてまばゆい光に包まれた世界へ移動し、美しい花畑で亡くなった家族や友人に出会ったりして、限りなく愛に満たされた感じがする。そして超越的な存在(神)に出会う・・・」。多くの臨死体験者が共通して口にする物語です。よく言われているのが、「臨死体験こそ、人には肉体の他に霊魂があり、死ぬと肉体から離れて死後の世界に入り、神と出会うことの証拠だ」という解釈です。

 立花さんが、どのような根拠で「死はそれほどこわくなくなった」と考えるようになったか。

 まず、動物(ネズミ)は、心臓が止まっても数十秒間は脳波が消えない」という、ミシガン大学のジモ・ボルジガン博士の研究成果があります。それまでは、心臓が停止すると数秒間で脳波が止まると考えられていたからです。そして、ボルジガン博士によって死の間際にネズミの脳の中でセロトニンという幸福感を感じさせる神経伝達物質が大量に放出されることが明らかにされました。この幸福感が、臨死体験で起こる「愛に満たされた感じ」の原因だと言うのです。

 つぎにケンタッキー大学のケヴィン・ネルソン教授の研究があります。ネルソン教授はさまざまな研究をもとに、脳の奥深くにある大脳周縁系が、死の直前、人間に白日夢のような神秘体験をさせることを突き止めました(註1)。ネルソン教授は、夫人の療養先であるカナダのプリンスエドワード島(赤毛のアンの島)に住んでいます。そこまで訪ねて、行ったのですから立花さんはすごいですね。

註1 筆者の現役時代でしたら、ネルソン博士の原著論文を読んで解析することができたでしょうが、今はそれが困難になりましたので、ここでは立花さんの言葉をそのまま受け入れます。

 これらを総合して立花さんは「臨死体験は、魂があの世に行ったのではなく、脳内の現象であり、人間は、死の間際に幸福感に包まれるような体験をする本能を持っているのではないか」と考えました。

 死後の世界が存在するかどうか・・・

 立花さんは「それは僕にとっては解決済みの議論だ」と言っています。その意味は、「死後の世界が存在するかどうかは、個々人の情念の世界の問題であって、論理的に考えて正しい答えを出そうとするかどうかの問題ではない」と言うのです。立花さんが哲学科で学んだことの中で一番大きな影響を受けたヴィトゲンシュタインの言葉「語りえぬものについては沈黙せねばならぬ(註2)」を引用しています(註2ブッダも「輪廻があるかどうか、わからないことなど考えるな」と言っています)。

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