読者の質問に対するお答え

 gabaebさん(筆者が付けたお名前)から次のようなメールをいただきました。

タイトル:コメント返して下さい、つらいです

内容:瞑想を深めれば、自分はパッパッ、と移り変わってゆく思考の連続そのもので、世界も自分の考え、幻なのだと解る。また、一切の事柄は、自分も含め考えだから、あらゆる事柄に本当の根拠はない。神、無条件の愛、いま、ここ、など、『これ』が大切だ、というのは本当はない絶対的なものにたいする執着だ。これらを理屈抜きで理解し、あらゆる考えに対する囚われ(自分は在る、苦等)を手放すことが悟りだ。と、とあるサイトに書かれていて、自分が辛いのも、結局自分に対する執着なのかなあ、と思ってしまいました」。

筆者のコメント:一読させていただいて、あなたは「ただ意識だけがある」という、いわゆる唯識的思想に少々執着しているのだと思います。つまり、「世界も自分の考え、幻なのだ。一切の事柄は、自分も含め『考え』だから、あらゆる事柄に本当の根拠はない」という考えに囚われているのでしょう。筆者は「唯識思想には原理的欠陥がある」とすでにお話しました(ブログ「唯識と禅」)。以下、お答えを一つずつ述べます。

1)唯識思想の欠陥:「あらゆるものに本当の根拠はない」は、仏教の伝統的考えかたです。私は「それはまちがいだ」とこのブログシリーズで何度もお話してきました。仏教のこの根強い考えは、釈迦が唱えた「縁起と無常の法則(?)」についての誤解から始まりました。まずそこからお話します。

 誤解の原因は、仏教思想の中興の祖と言われるインドの龍樹(ナーガールジュナ、AD150-250頃の人)から始まります。もともと仏教思想の要諦は、「縁起と無常」であると言われてきました。「あらゆるものは原因があって生じる」と「あらゆるモノは変化する」という意味ですね。じつは釈迦が唱えた「縁起」とは、「あらゆる苦しみには原因があることに気づきなさい」という、素朴な、しかし大切な「生きる知恵」だったのですが、龍樹がそれを拡大解釈し、「あらゆるモノは縁(つまり原因)によって生じる。縁がなくなれば消える」としました。龍樹の空思想ですね。

 この考えは仏教のもう一つの根本理念である「無常」(あらゆるものは変化する)と結びつき、さらに「あらゆるモノゴトには実体はない」と拡大されました。それは「それゆえ苦しみや悲しみは実体のないモノゴトに囚われているから生じる」という「教え」の原理として都合がよかったからです。この考えの延長に唯識思想があります「モノはなく、それを見た(聞いた、さわった・・・)私の意識だけがある」という思想ですね。現代でも著名な仏教家のほとんどは、この「モノという実体はない」という考えに囚われています。しかし、「モノ」の実体はあるのです。何よりの証拠は、コツンと叩かれれば痛いのです。実体があるからこそ「色即是空・空即是色」という、有名な般若心経の理念が成り立つのです。まちがった思想にこだわることはありません。

 2)一方、gabaebさんがブログで慧〇さんは、「人間の思考や怒りや不安などの感情は、エゴの意識で見たモノゴトの認識に基づく。モノゴトを観照意識(六根、つまり、五感と意を通して起こってくるこの世界をただ観る、ただ感じる)で正しく観ることが真我への道だ」と言っているのですね。それをgabaebさんは「ただ観る、ただ感じる」が「意識だけがある」と飛躍したのではないでしょうか。たぶん観照意識の考え(非二元論)は、上記の仏教思想から来たものでしょう。元が誤りなら・・・。ちなみに筆者は慧〇さんはのように「私は悟りに達した」と公言する人を信じません。

3)「神、無条件の愛、いま、ここ、など、『これ』が大切だ、というのは本当はない絶対的なものにたいする執着だ」について、

 筆者は、神の存在を頭ではなく直感で信じています(その経緯はブログに書きました)。つまり、「実在する」と確信しており、こだわるかどうか以前の問題と考えています。また無条件の愛は、どんな未開の人たちにも、いや犬や猫にさえ、子供に対する愛として持っています。つまり、まぎれもなく「ある」のです。執着するかどうかの問題ではありません。一方、「いま、ここ」は、禅の要諦で、「正しいモノゴトの観かた」ですから、信じるかどうかは、各個人の問題です。筆者は正しいと信じています。

 以上、やはりgabaebさんは少々、「意識だけがある」という唯識的考えに囚われていらっしゃるようです。ちなみに筆者は生命科学の研究者として生きてきましたが、「あらゆる既存の知見や理論は『信じつつ、信じない』」を戒めとしてきました。筆者が「混線しているのではないか」と指摘した理由は、これで納得できましたか?もしまだ疑問が残るようでしたら、もう一度お便りください。

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