霊的現象についての小林秀雄さんの考え

神と死後の世界の存在(4)‐小林秀雄さんの思想

 小林秀雄(1902‐1983)は日本を代表する評論家。「本居宣長」「感想(ベルグソンについて)」など著書多数。「心霊現象」にも深い関心を持っていた哲学者のH.-L.ベルグソン(1859-1941)の思想についても紹介しています(「小林秀雄講演集 新潮CD 註1)
 ベルグソンが出席していたある世界的な会議で、同席したフランスの名高い医学者が一人の夫人の体験談を紹介した。
 ・・・この前の戦争(第一次世界大戦:筆者)の時、士官である夫が遠い戦場で戦死しました。私は、夫が塹壕で倒れた光景を白日夢で見ました。それはきわめてリアルで、戦後私のところへ夫の死の模様を知らせに来てくれた人たちの顔は、白日夢で見た倒れた夫の元へ駆けつけた戦友たちの姿と一致しました・・・
その医者は、「あなたのおっしゃることはよくわかります。しかし、そのような予知夢には誤りであるケースも多いのです。ですから残念ながらあなたの体験が真実だと結論することはできませんと答えた」と言う。ベルグソンはそれを聞いていたが、その会議の場にもう一人若い娘さんがいて、ベルグソンに「わたしは先ほどのお医者さまの考え方は間違っているように思います。あの考え方のどこが違っているのかわかりませんけれども、間違いがあるはずです」と言った。ベルグソンもその女性の意見に賛成したという。
 小林氏は言う、
 ・・・私も家内や子供が死んだ夢を見たことがあります。しかし、現に二人ともピンピンしています。しかし、私はベルグソンの考えの方が正しいと思います。なぜなら、近代科学ではすべてを「正しいか、正しくないか」と決め付けます。しかし、そういう判断をするようになったのは、たかだかここ数百年のことなのです・・・
 つまり小林氏は、「たとえそのような神秘体験の90%が間違いであっても、残る10%まで否定してしまってはいけないのではないか」と言うのです。これはとても示唆に富んだ問い掛けだと思います。
 筆者は、たくさんの神秘体験をしました。しかし、大学教員時代は一切それを口にしたことはありません。教員としての「良識」を問われかねないからです。現在でもこのブログシリーズで霊の存在などについては、慎重に言葉を選んでお話しています。しかも体験の一部しかご紹介していません。たとえば、筆者は2回、はっきりとした、いわゆる「金縛り現象」を体験しました。現在では、そういう体験はすべて「睡眠麻痺」として説明され、否定されています。しかし、筆者のそれらの体験はじつにリアルで、それぞれの内容は異なります。筆者はのちほど「睡眠麻痺」も経験しましたが、前の2件の「金縛り」とは明らかに違うのです。
 筆者は、40年にわたって生命科学の研究者として過ごして来ました。そこでは、新しい現象が現れた時には「説明してはいけない」ことを経験的に学びました。説明とは、必ず過去の知見や思想に基づいて行うものだからです。新しい現象は、今までとはまったく異なる原理で解釈すべきなのかもしれません。そういう基本的態度を持っていなければ創造的な研究などできません。ですから、筆者は神の存在や死後の世界のことなどについて、体験した人の話を頭から否定することはありません。

註1 小林氏は30年以上前に亡くなっており、「小林秀雄講演集 新潮CD」の著作権者が現在どうなっているのかわかりません。もし、筆者の上記の引用記事が著作権に抵触するようでしたら、ご一報いただければ幸いです。

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