Huさんから次のようなコメントをいただきました。
・・・デフォルトモードネットワークそのものが空ではないと思います。私も含め凡人がデフォルトモードネットワークに入ると少なからずマインドワンダリング状態(暴走状態)になります。しかしデフォルトモードネットワークがあるがままになれば、それはアイデアの源泉であり生かすことができます。デフォルトモードネットワークは想(saññā)の海と喩えることができると思います。ブッダの「想い想うのでなく、無い想いを想うのでなく、想わないのでなく、想いを滅したのでもない」がデフォルトモードネットワークのあるがままの状態ではないかと思います。扁桃体という種々の感情の源泉となる脳の部位がありますが、チベットの高僧の脳科学的検索によると、彼らの扁桃体は通常と同じ活動をしていたとのことです。扁桃体があるがままの状態でいるということです。これが空即是色ということだと思います・・・。
これは以前、瀧川哲さんからいただいた・・・「デフォルトモードネットワークは空です」というコメントに対し、筆者が「それは誤りだと思います」とお答えしたブログについてのHuさんの感想です。
Huさんは以前から時々コメントをいただいている人で、パーリ語仏典の中でも最も色濃くブッダの言葉を伝えていると言われている「スッタニパータ」や、道元の「正法眼蔵」までよく読んでいらっしゃり、筆者が期待している人です。筆者が指摘した誤りも素直に認めるところが好ましく思われます。
さて、デフォルトモードネットワークとは、前回もお話したように、「取りとめなくさまざまなことを考えている脳の状態」です。「取りとめなく」と言っても、それが円滑に行けば良いアイデアも生まれるとも言われます。逆に、過剰に働けば、過去の苦しいこと、不愉快な思い出、悲しい思い出を繰り返し思い出すことになり、しばしばうつ病の原因になる。そこで、過剰なデフォルトモードネットワークを鎮めてうつ状態から脱し、前向きな姿勢になるメンタルトレーニング講座なども開かれています。
さて、Huさんのおっしゃっている「チベットの高僧は、偏桃体の脳科学的検査の結果では『あるがまま』だった」についてお話します。脳の扁桃体とは、扁桃(アーモンド)状の神経が集まっている部位で、情動・感情の処理(好悪、快不快を起こす)、直観力、恐怖、とくに不安や緊張、恐怖反応において重要な役割も担っているとされています。チベットの高僧の偏桃体の活動が「あるがまま」とは、「デフォルトモードネットワークが活発に働いている時でも偏桃体神経の活動は平静だった」という意味でしょう。
次に、ブッダの「想い想うのでなく、無い想いを想うのでなく、想わないのでなく、想いを滅したのでもない」は、スッタニパータ(中村元訳「ブッダの言葉」岩波文庫)にある言葉で、
873 形態の消滅に対する回答として、
・・・ありのままに想う者でもなく、誤って想う者でもなく、想いなき者でもなく、想いを消滅した者でもない。―このように理解した者の形態は消滅する・・・けだしひろがりの意識は、思うに基づいて起こるからである・・・
筆者のコメント:デフォルトモードネットワークがあるがままの状態であることが、ブッダのこの言葉と関連していることはよくわかります。やはり瞑想と関係があるのでしょう。 Huさんといい、瀧川さんといい、どうもデフォルトモードネットワークを「空」や「色即是空」に結び付けようとする人たちが少なくないようです。しかし、デフォルトモードネットワークがあるがままの状態であることが、なぜ「空」や「空即是色」につながるのか、筆者にはわかりません。考えに大きな飛躍があると思います。Huさんにお尋ねし、もっと詳しく説明していただきましたが、やはりよくわかりません(Huさんの回答については「読者のコメント」をお読みください)。
Huさんへ。筆者のこの文を読んだ感想をお聞かせください。