山川宗玄師「無門関」(1)

 山川宗玄師は、岐阜県美濃加茂市にある臨済宗正眼寺・正眼僧堂師家(指導者)です。山川師は禅の公案集〈無門関〉について、ニューヨークにある臨済宗・金剛寺での講演会で解説しました(〈無門関の教え・アメリカで禅を説く〉淡交社)。なお、山川師については、すでにブログでも紹介しました(2019/7/4)。

 山川師は上記の著書で、〈無門関〉48則のうち20則を取り上げ、解説しています。そのうち幾つかについて、山川師の提唱と、それについての筆者の感想をお話します。

 1)まず第六則 世尊拈華(せそんねんげ)です。元の話は、

 原文:(本則のみ。以下同じ)

 世尊、昔、霊山会上に在って、花を拈じて衆に示す。是の時、衆皆な黙然たり。惟(ただ)迦葉(かしょう)尊者のみ、破顔微笑す。世尊云く、「吾に正法眼蔵・涅槃妙心・実相無相の微妙法門あり。不立文字教外別伝 摩訶迦葉(まかかしょう)に付嘱(ふしょく)す・・・・です。

 現代語訳:ある日のことブッダは霊鷲山での説法において大衆にむかって静かに金波羅華〈こんぱらげ〉という花を高くかざして示された。このとき大衆はその意味が分からず、ただ黙ったまま何の言葉も出せなかった。このとき一番弟子の迦葉尊者だけが破顔し微笑したのである。この微笑にブッダは迦葉こそわが真意を解した。「吾に、正しき智慧の眼(正法眼)をおさめる蔵があり、涅槃〈悟り〉に導く絶対なる法門がある。この法門は言葉によらず、文字によっても教えられない。微妙の法門である。この我が真実の法の一切を迦葉に伝える・・・・

 山川師の解釈:・・・・その後派遣されて和歌山県の興国寺へ行った。本尊は釈迦牟尼仏で、通常の座禅ではなく、花をかざした(拈華)お姿だった。2-3年後、たまたま来訪した観光客に「これは珍しいブッダのお姿ですよ」と説明し、釈迦牟尼仏を指さしたとき、ハッと気づいた。〈花が咲く〉は〈咲(わら)う〉だ。花が咲き、花が笑い、迦葉尊者が笑い、ブッダが笑った。天地が笑い、神仏が笑い、花が笑った。その笑いの中で一つになった。それを了解しました・・・・。

 筆者の感想:つまり、山川師は「〈花が咲く〉は〈咲(わら)う〉だと分かった」と言うのですね。そして「日本語はすばらしい」と。ずいぶんな〈こじつけ〉だと思います。第一に、これではブッダと迦葉の間で何が伝わったのかまったくわからず、〈公案〉にはなりえないのです。山川師もこのエピソードが〈大梵天王問仏決疑経〉という偽経、つまり、中国で作られたお経であることは承知していますが、偽経であることの意味を分かっていません。ブログでもお話したように、このエピソードは明らかにを説いているのです。おそらくそのために中国の禅宗の誰かが作ったお経なのだと思います。

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