以下は筆者が実体験した出来事です。筆者の知人Oさんは元国立大学准教授です。筋金入りの霊能者で、あの〈黒魔術〉を学びにイギリス留学をしたとか。黒魔術と聞きますと、まずおぞましい印象しかありませんが、Oさんによると、単に一つの霊的教団の一つに過ぎないとか。しかし実力は、凡百の〈表の教団〉とは比べものにならないほど強力だそうです。それゆえ、わざわざイギリスまで習いに行ったのでしょう。なお、Oさんはその後大学を辞め、今ではあるスピリチュアル系団体の代表です。
そのOさんがある日突然、筆者宅を訪れました。40歳くらいの女性を連れて。応対に出た筆者夫婦と対坐すると、その女性はいわゆる〈神がかり状態〉になり、苦しみ始めました。どうも家内が同席することを忌避するようでした。そこで家内を別室に下がらせると、「我は津軽藩士中野重右衛門が弟なり。殿からお預かりした刀を・・・・」と言い出しました。どうも筆者の先祖霊らしいのです。するとOさんが自分の脇腹を抑えて顔をしかめました。以下にそれからのやり取りを要約します。
どうやら家内の先祖霊が、重右衛門の弟の同僚だったらしく、弟が殿からお預かりした名刀を騙し取ったため、その責任を取って切腹したのだとか。Oさんが脇腹を抑えたのはその傷みの表現でした。その女性霊能者は続けて「憎き敵がこともあろうに中野家の嫁に来るとは」と言うのです。初めに家内を忌避したのはそのためだったのです。なお、敵同士が生まれ変わって夫婦になったり、親子になったり、男が女になったりする例は少なくないようです。「因縁」とはそういうものでしょう。
いかがでしょうか、もちろん突然のことで、筆者もそのまま信じることはできません。ただ、家内の先祖が津軽藩士であったことは〈由緒書〉から確かです。さらに筆者の高祖父は中野重左エ門でした。先祖は代々「重」の字が付く名前を世襲したのかもしれません。
何度もお話したように、筆者は10年にわたって神道系教団に属し、いわゆる〈霊能開発修行〉をしました。その過程でさまざまな心霊体験をしました。いまお話したエピソードはその一つです。民俗学者の柳田邦男は、霊能力豊かな人でした。名作〈遠野物語〉は、柳田の霊的観点抜きにしては理解できないのです。その柳田の言葉「バカバカしい話ならいくらでもあります」は、霊的体験の事です。もちろんそれらは真面目な話ですが、そのまま言えば、多くの反発があることを見越した上での言葉です。その柳田流に言えば、今お話したのは、筆者が体験した〈バカバカしい出来事〉の一つです。