池江璃花子さんの奇跡

 池江璃花子さん(20)が4月3‐10日に行われた日本水泳競技会2021年度大会で、100mバタフライなど4種目を制覇し、同種目と400mリレーのオリンピック出場権を得たことは多くの日本国民に感動を与えました。

 なにしろ池江さんは11個の日本記録保持者であるとともに、2018年アジア大会で6個の金メダルを取るなど、めざましい活躍をしており、今次の東京オリンピックでも大活躍が期待されていました。それが一転、突然自ら白血病であることを告白したのです。その池江さんが今度の快挙を成し遂げたのです。文字通り「奇跡的復活」ですね。

 筆者のブログシリーズでは、さまざまな苦しい状況にある多くの人たちに少しでも生きる力が与えられることを念願して書き続けています。以前にもお話したように筆者は、30歳の頃から、色々な本や雑誌の中で「これは将来、自分を支えてくれる」と思われる文章をノートに書き留めてきました。そのノートは今でも大切に保管してあります。しかし、42歳のとき、このノートをいくら読んでも解決できない苦境に陥りました。そこで宗教に救いを求めたのです。キリスト教会のミサにも数年通い、ある神道教団の会員になり霊能開発修行を10年続けました。そこでは多くの重要な体験をしましたが、やがて失望して退会しました。そして禅へと移ったのです。

 池江さんのこのすばらしいエピソードも、いずれ歳月とともに人びとの記憶から薄れていくでしょう。しかし、将来にわたって、どんな人でも苦境から脱するための貴重な教えを記録しておかねばなりません。そのためにこのブログを追加しました。

 白血病の恐ろしさは、関連研究をしていた筆者にもよくわかります。池江さんはなんと18㎏も痩せました。その時の映像は今も残っていますが、痛々しい限りです。泳ぐことはもちろん、水に入ることさえできなくなりました。栄光から「どん底(池江さんの言葉)」へ落ちたのです。しかし池江さんは諦めませんでした。懸命の闘病とトレーニングの結果、10ケ月後には水に入ることを許されたのです。

 池江さんの一番の苦しさは、「私には水泳がすべてだ。しかし、それが無くなってしまった」ことです。「自分のすべてが否定されてしまった」と思ったのは当然でしょう。しかし、池江さんは、SNSで「必ず戻ってきます。待っててください」と発信しました。リハビリの辛さはよく聞きます。池江さんも絶対の禁句「こんなに辛いなら死んだほうがましだ」と言ったとか。司会者は和久田アナウンサーでしたが、思わず感極まって泣いていました。アナウンサーとしてしてはならない態度でしたが・・・。

 NHKは、池江さんの素晴らしさを次のように分析しました。池江さんの「その後」を詳細に取材していた結果です。池江さん自身でさえ忘れていた言葉です。

 すなわち池江さんは「過去の栄光」と「つらい現実」の両方を「キッパリ」と否定しました。そのために池江さんは、希望を次のような段階に分け、一段階ずつ登って行ったのです。

まず、「ただ泳ぐ楽しみを取り戻したい」

次いで、「仲間と泳ぎたい」

次に「レースを楽しみたい」

そして最後に「これは私の第2の水泳人生である。自己ベストを更新したい」

これならギャップの大きさに絶望しなくてもすみますね。そして池江さんは、「無理なく」、しかし、「体に負荷を掛けながら」各段階に見合ったトレーニングを積み重ねていきました。

 そしてまず、10ケ月後に「泳ぐ楽しみ」と「仲間と泳ぐ楽しみ」を取り戻したのです。次に2020年8月の東京都特別水泳大会のレースに参加しました(結果は5位でした)。そして2021年1月の東京都OPEN水泳競技大会に出場し、自己ベストには達しませんでしたが3位入賞を果たしました。あと一歩のところへ来たのです。そしてそのわずか3か月後の日本水泳競技会で出場全種目優勝したのです。奇跡としか言いようがありませんね。

 池江さんの素晴らしさはまだあります(表現は筆者の責任で少し変えました)。「今までは早く泳ごう、速く泳ごうと考えていたけど、今ではその努力自体に焦点を当てています。自分の成長が楽しみです」と。

 「過去は振り返らない。将来のことは憂えない。今やるべきことを懸命にやる」とか「今の私にきちんと向き合う」は、はからずも禅の思想そのものです。池江さんの真摯な努力は、いかなる高僧も及ばないでしょう。行動がそのまま思想になっているのですね。奇跡は池江さん自身が起こしたのです。

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