ニートのシェアハウス

 NHK「目げき日本-山奥ニートの不思議な日々-より。

 和歌山県田辺市の山奥にニート(註1)・引きこもりの若者が共同生活をしている家があります。NPO共生舎と名付けられたその家では、限界集落(現在高齢者5人)の廃校になった小学校の建物を無料で借り、住居費はただ、食費は一人月2万円。最寄りの駅まで車で2時間。現在20~40代の男女12人が暮らしている。食事は「なんとなく誰かが全員分を作る」。個室があり、職員室の跡らしい40畳くらいの共有スペースもある。そこでは何をしてもよく、しなくてもいい。ふだんはに共有スペースに10人くらいが常に居て、雑談ををしたり、テレビゲームをしたり、読書をしたりしている。インターネットは完備しているのでSNSで外の人たちとコミュニケーションもできる。それを利用して得意のマンガを書いて発信している30代の女性は「(ここの人たちは)家族でもなく、友達とも言えず、仲間ともちょっとちがう適度な距離感(がいい)」と言う。

 Aさん(30歳男性)は、大学を中退し、小さな建設会社の管理職をしていたが、毎日15時間働き、休みは週1度だけ・・・。5年前にここに来たときは、心身ともにボロボロになっていた。だれにも相談できず、どうすることもできなかった。自死を何度も考え、実行もしたが、いま一歩その勇気がなかった。親の目を気にせず、思う存分引きこもるために山奥で生活することを決めた。ここに来て、周囲は干渉もせず、無視もせず、そっとしておいてくれた。こんな自分でも受け入れてくれたのが嬉しかった。ここでは、朝はだいたい11時に起きてから今日は何をしようかと考え、焚き火をしたり、リビングで他の人とゲームをしたり、読書したりという、まさにその日暮らし。「自分も含めてニートは先のことを考えるのが苦手だと思う。『今』だけを考えて生きている」。Aさんはその後結婚し、2か月はここで暮らし、あとの1か月は、名古屋に住む奥さんのところで暮らす生活だと言う。

 Bさん(3年前からここで暮らす上記の30歳の女性)は、「以前働いていたところでは毎日長時間のサービス残業を強いられ、心のバランスを崩した。 そこを辞めて法律事務所の事務をしていたが、相談者の訴える内容の余りのドロドロさに、耐えられなくなって、ここへ来た。SNSでマンガを発信することで外部の人ともコンタクトできる」。

 Cさん(40代男性)は元テレビの製作会社に勤めていた。「名デイレクターや名プロデユーサーになりたいと思っていたが、周りの近しい人たちを押し除けてそういうものになるのは結構えぐい感情かなー」と思った。レールを外れてみて、初めてそんなことは大したことじゃないと思った。コロナをきっかけに退職し、もう一度よく考え直そうと思ってここへ来た。

 食事代2万円を含む生活費は、この集落の農家や林業の手伝いをしたりして得ている人、3日に一度近くの障碍者福祉施設で働いている人、リモートワークしている人もいる。税金も社会保険料もちゃんと払っている。5人の地域住民(平均年齢80歳)も、「若い人たちが来てくれてほんとに嬉しい」と。

 過去7年に、累計40人がこの共生舎で生活をしてきて、見学には200人が訪れた(現在はコロナのため中止)。「この山奥が合う人は残って、合わないと思う人は自然と去っていく」「今年も4人が入れ替わった」。NHKのデイレクターが取材を兼ねてしばらく共同生活をしている間に珍しい来客があった。去年ここを卒業した青年。「かっては引きこもりだったが、ここでの生活で人とつながることができた。自分のためにというより、一緒に生活している人のために努力できた・・・。それが今に生かされて幸せです」と。そしてさりげなくトイレなどを掃除して帰って行った。

註1ニート(Not in Education, Employment or Training, NEET)とは、就学・就労していない、また職業訓練も受けていないことを意味する用語。 元々は、イギリスの労働調査報告書で発表された教育、雇用、職業訓練に参加していない16~18歳の若者を指す言葉として登場しました。日本においては、厚生労働省「特定調査票集計」によれば15~34歳の非労働力人口の中から、専業主婦を除き、求職活動に至っていない者をニートと定義。

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