自分に気付く-禅の心

 「自分に気付く?私など自意識過剰なくらいだ」と言う人も多いと思います。しかし、本当の意味は違います。大部分の人は「自分」に気付いてはいません。筆者の畏友お二人は、はからずも、それぞれ30年あるいは50年間中小企業の会社を経営して来た人です。某大学の経営学専門の教授によれば、「ふつう会社の寿命は3年」とか。筆者の自宅の近くでも、最近、さまざまな業種の会社や店舗が閉じています。おそらく多額の負債を残して。それを30年あるいは50年間保ってきたのですから、苦労は筆者の想像を越えるはず。それゆえお二人には「キラリとする」言葉があります。筆者は長年「お二人の成功の秘密は何だろう」と、あれこれ話を伺いながら突き止めようとしてきました。以下、それぞれについて紹介させていただきます。

 お一人のAさんは、「我慢です」と。「契約を取れれば100%、すぐ次を取れなければ0%で、眠れない日が続く」。相手が役人であるときには「ただ忍耐」と。一般業者であろうと、争いなどできるはずがなく、たとえ勝っても次の発注はないことは筆者でもわかります。仕事が終わっても契約金をなかなか払ってもらえず、3回も相手の事業所を訪れたことも。事務の人が同情して、「あの社長の意図では、支払いは来年のつもりでしょう」と「秘密」を教えてくれたとか。もちろん、こちらもすぐにでも必要なお金でしょう。筆者など忍耐などとても続かず、まちがいなく鬱になっていたはずです。

 あるときAさんは、関連業界の友人のことを話してくれました。彼は経営上大きな会社の傘下に入ることを選択し、景気のいい時には何十億円の契約になったとか。Aさんが直接目にした彼のエピソード・・・・「京都の高級家具店へ行ったとき、『その辺にある家具を全部下さい』と」。しかし、身の丈を越える経営は長続きせず、やがて倒産してしまった・・・・。Aさんは「自分の身の丈はせいぜい年商1億円」と見極め、大企業の傘下には入らず・・・・その後も続いています。自分を見極めるには勇気が要ります。それを成し遂げて生き残ったAさんは達人でしょう。「インテリジェンスとは己を知ることである」・・・誰の言葉だったか忘れましたが叡智ですね。

 Aさんは定年後もなかなか経営から手を引けず、80歳を越える今になっても、あれこれアドバイスし、工事現場にも時々顔を出しているとか。「顔を見せるだけでも働く人たちの励みになる」と。筆者がいろいろ話を伺っても、「この人は余人には代えがたい資質をもっている」とわかります。筆者とは月に1度会っていますが、いつも「残りの人生はのんびりと、楽しく暮らしてほしい」と願っています。コロナ不況の今日、Aさんは意図的にいろいろな商店から「買ってあげる」こともあるとか。

 「おのれを知る」ことは、じつは「悟りの要諦の一つ」なのです。すなわち、禅はモノゴトの見方ですから、正しく観るには自分を常に確保しておくことが重要なのです。Aさんは、この悟りへの大切なステップをクリアしています。

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