死後の世界と生まれ変わり‐スピリチュアリズム(1-4)

死後の世界と生まれ変わり‐スピリチュアリズム(1)

 ところで、19世紀半ばから、既存の宗教とは異なる、精神世界の新しい潮流が起こりました。一般にスピリチュアリズム(心霊主義)と呼ばれているものです。一つは霊界通信、すなわち、霊感の強い人が、霊的世界からのメッセージを受け取るものです。一方、、退行催眠による前世療法と呼ばれる、おもにアメリカの精神科医が行う精神疾患の治療から得られた霊的世界の仕組みについての知識です。そして第三は、「前世を語る子供たち」という、特殊な子供たちに関する研究です。

 それらの内容をざっとまとめてみますと、

 1)死後の世界があること。すなわち、人間は死んでも霊魂として残る。霊魂は不滅であり、生まれ変わりを繰り返し(註1)、魂の向上を図りながら、限りなく神に近づいて行くことが「生きる目的」であること。
 2)現世は人間の魂の向上の場であること。すなわち肉体の死後、魂は中間生(前世と現世の中間)に戻る。そこで、いわゆる守護霊に再会して、現生での人生をビデオのように再現してもらい、この世に生まれて来るにあたって自ら決めていた課題を十分果たしたかどうかを確かめる。それが不十分であることを自覚したら、やはり守護霊と相談して、もう一度人間の世界に生まれて来るかどうかを決定する(このとき課題についての記憶は心の深奥に隠される:註2)。
 4)再びこの世に転生して来て、課題が隠れたトラウマ(カルマ)となって人生の過程でさまざまな問題を起こす(じつはそういう問題が人生で起こるように、自ら仕組んでいた)。これらの問題に出会った時、それを魂の向上にとって正しい判断で対処することが課題の達成になる。
 5)魂はグループとして存在し、ある人生では夫婦として、別の人生では親子として生き、時には夫婦や親子の関係を替えてさまざまな問題を生じさせ、それを解決する。

 このスピリチュアリズムの潮流は大きな驚きとなって受け止められました。なにしろキリスト教でも仏教でも霊魂とか輪廻転生という思想はなかったのですから(註3)。人は死んでも魂として残り、適当な方法によれば死者にも再会できるとは、遺族にとってどれだけ慰めになるかわかりませんし、生きている人にとっても死は怖くないと大きな安心感をもたらすからでしょう。

 何度もお話していますように、筆者は霊的世界の存在を信じています。それどころか、何度も悩まされてきました。ただ、「生まれ変わり」があるかどうかはよくわかりません。神道教団に属している時、なんどか見聞きしてはいましたが。

 死後の世界があることの証明には、上記のように、次の三つのアプローチがあります。第一が、特別に霊感の強い人(霊媒ともチャネラーとも)を通じて行われる、高級霊からの霊界通信です。第二は精神科医による治療法としての前世療法です。そして第三が、前世を語る子供たちについての調査研究です。これら三つのスピリチュアリズムについて、順次お話して行きます。
 筆者は30年前、、神道系の教団に入ったころ、スピリチュアリズムにも興味を持ちました。次回からお話するシルバーバーチ、「前世療法」のブライアン・ワイス、「前世を語る子供たち」のイアン・スチブンソンなどの名前を懐かしく思い出します。

註1この問題については後ほど項を改めてお話します。

註2「なぜ課題は現世に生まれるにあたって消されてしまうのか。課題がわかっていれば、人生がずっと楽になるのに」との質問がありました。筆者は「課題がわかっていれば答えがわかっていることになり、魂の向上にはならないからです」とお答えしました。

註3キリスト教では人は死ねば霊魂は墓の下に眠り続け、人類最後の日に最後の審判が行われ、天国へ行けるか地獄へ落されるかが決められるとされています。一方仏教では、もともと釈迦は輪廻転生を否定していました。釈迦仏教が、インドの厳しい身分制度であるカースト制の対立命題として出発したからです。輪廻転生を認めればバラモンはバラモンとして、クシャトリアはクシャトリアとして転生する思想を認めることになるからです。筆者のブログで「釈迦も驚く日本の地獄極楽思想」と書きましたのはそこを言っているのです。

死後の世界と生まれ変わり‐スピリチュアリズム(2)

 霊界からの通信は次のようなさまざまな形で行われています。代表的なものもには、「シルバーバーチの霊訓」、アラン・カルデックの「霊の書」、自動書記(自然に手が動いて文字を書く)で行われたモーゼスの「霊訓」などがあります(註4)。まず注意していただきたいのは、スピリチュアリズムにはキリスト教や、イスラム教のような唯一絶対神とは別に、その下にさまざまな階層の神々がいらっしゃるという想定です。日本神道の神々と同じかもしれません。神が人間に直接働きかけるということは絶対にありえません。ある人が「そんなことは、人間がウイルスに話しかけるようなものだ」と言いましたが、そのとおりでしょう。ここでは、中でも代表的なシルバーバーチの霊訓についてご紹介します。

 シルバーバーチの霊訓(霊界通信)
  イギリス人モーリス・バーバネル(1902‐1981)を霊媒として、高級霊団から、人類の魂の向上のために伝えられたメッセージです。この高級霊団は、仮にシルバーバーチ(シラカバ)と呼ぶ古代アメリカインデアンの姿で現れています。これらの霊界通信は、イギリスのハンネン・スワッファー・ホームサークルと名付けられた降霊会(19世紀には、イギリスで盛んでした)で行われました。これまでに「シルバーバーチの霊訓1‐10」(近藤千雄などの訳 潮文社)としてまとめられている膨大な量のメッセージです。現代でもシルバーバーチの霊訓の普及は、各地の勉強会や、スピリチュアリズム普及会・シルバーバーチ霊訓総合サイト http://www5a.biglobe.ne.jp/~spk/などで行われています。

いまお話したように、シルバーバーチの霊訓は大部のものですが、たとえば、

 ・・・物的身体の存在価値は、基本的には霊(自我)の道具であることです。
霊なくしては身体の存在はありません。そのことを知っている人が実に少ないのです。
身体が存在できるのは、それ以前に霊が存在するからです。霊が引っ込めば身体は崩壊し、分解し、そして死滅します(「シルバーバーチの霊訓―霊的新時代の到来」p194)・・・

・・・死が訪れると、霊はそれまでに身につけたものすべて――あなたを他と異なる存在であらしめている個性的所有物のすべて ――をたずさえて、霊界へまいります。意識・能力・特質・習性・性癖、さらには愛する力、愛情と友情と同胞精神を発揮する力、こうしたものはすべて霊的属性であり、霊的であるからこそ存続するのです(「同」p256)・・・

などの言葉があります。

 筆者はもう30年以上前に「シルバーバーチの霊訓集」を読み、スピリチュアリズムの概要を知りました。

註4 わが国では大本教教祖出口なお(1838‐1918)の「お筆先」が有名ですね。自動筆記ですが、出口なおは文盲でした。夜真っ暗になっても筆を走らせいたとか。「さんぜんせかい いちどにひら九(開く) うめのはな きもん(鬼門)のこんじん(金神)のよ(世)になりたぞよ」「つよいものがちのあ九ま(悪魔)ばかりの九に(国)であるぞよ」という痛烈な社会批判を含んだ終末論です。

死後の世界と生まれ変わり(3)前世療法

 前世療法とは、ブライアン・L・ワイス博士(1944-、元マイアミ大学医学部精神科教授)などによって盛んに行われた神経症の治療法です。退行催眠と呼ばれる治療を通じて、さまざまな霊界事情が患者の口を通して伝えられました。

 まず留意していただきたいのは、欧米では、死後の世界や生まれ変わりについての真面目な研究や治療が社会的に承認されていることです。日本でしたら、大変な非難を受けることでしょう(註5)。

註5 わが国には、明治大学情報コミュニケーション学部にメタ超心理学研究室(石川幹人教授)があります。勇気ある行動と思います。

 もともと、「わけがわからないほど水が怖い」とか、「あの子が生まれた時から憎い」というような異常な神経症の治療法として、患者を深い催眠状態に導き、その葛藤が生じた過去の体験(本人が忘れてしまった幼時体験)」を突き止めようとする退行催眠という手段があります。あるとき ブライアン・L・ワイス博士は「異常に水がこわい」というキャサリンという患者に退行催眠を行っていました。そのときワイス博士は「あなたの症状の原因となった時にまで戻りなさい」と、言いました。するとキャサリンはまったくワイス博士が予想しなかった答えを口にし出したのです。

 ・・・アロンダ・・・私は18歳です・・・時代は紀元前1836年です・・・大きな洪水が・・・水がとても冷たい・・・子供を助けないと・・・息ができない・・・

つまり、キャサリンは幼時体験ではなく、前世にまでさかのぼってしまったのです。そしてキャサリンは、過去生があること、前世と現世の間に中間生があること、そこで指導霊に出会い・・・という、最初にお話した、死後の世界や生まれ変わりなどの霊界事情がわかって行ったのです。キャサリンのこの「水が異常に怖い」という真理の原因が突き止められ、それから解放させることによって病気が治ったのです。
 この治療法は、その後多くの医者によって追認され、前世療法として確立されました。それによってさまざまな人々の神経症が治されて行ったのです。

 この前世療法は、「人間の肉体が滅びても魂は残り、不滅であること」や、「中間生に戻って指導霊から、現世で課題がちゃんと果たされたかどうか」、「課題が十分に果たされなかったと判断された場合には再び人間界に転生すること」「人間界は課題を果たすための場であること」、「何度も生まれ変わりをり返し、課題を果たしながら魂を向上さて行き、神に近づくこと」「それが人間がこの世に生きる意味であること」などという、驚くべき事情がわかって行ったのです。

 この思想は一世を風靡し、現在わが国でも、民間で前世療法が行なわれ、あとでお話する福島大学の飯田史彦さんの著述・講演活動にもつながっています。ただ、次回お話するように、催眠により前世を突き止めようとするこの方法には大きな問題があり、注意が必要です。

「前世療法‐米国精神科医が体験した輪廻転生の神秘」ブライアン・L・ワイス 山川紘・山川亜希子訳(PHP文庫)

死後の世界と生まれ変わり(4)イアン・スティーヴンソンの研究

 「生まれ変わり」についての研究でもう一人著名な人物に、イアン・スティーヴンソン(1918‐2007)がいます。「前世を記憶する子どもたち」(日本教文社)などにまとめられた研究態度はきわめて厳正で、世界中から厚い信頼が寄せられています。スティーヴンソンはインドを初めとするアジア各地、欧米などで広く調査し、多くのケースについて詳細に調査しました。それらの詳細については上記の著書をお読みいただくとして、ここではそれらの研究の端緒になった事例である、日本の「勝五郎の生まれ変わり」のケースをご紹介します。

 「勝五郎(小谷田勝五郎、江戸末期1814-1869)は、武蔵国多摩郡中野村(現在の八王子市東中野)で生まれました。8歳のころ、突然兄と姉の前で、「おれはもとは程久保村(中野村の隣村、現日野市程久保)の藤蔵という子どもで、6歳の時に疱瘡で亡くなった」と言った。はじめは聞き流していた家族も、あまりに具体的で詳細な話に、祖母が勝五郎を連れて程久保村へ出向いて調べたところ、まさしくその両親も実在し、家のたたずまいや周りの景色も、勝五郎の話そのまま、さらに藤蔵の墓まであったと言います(註6)。その話は村ではもちろん、日本中で大評判になり、あの平田篤胤も実際に勝五郎やその父親に会って話を聞き、「勝五郎再生記聞」(岩波文庫収録)を残しています。さらに小泉八雲(ラフカデイオ・ハーン)も、イギリスとアメリカで随筆集「仏の畠の落穂」の一編として、「勝五郎の転生」を発表しています。「仏の畠の落穂」は創作集ではなく、八雲が興味を持った日本人の宗教的な心情を示す事項を資料として紹介したものです。イアン・スティーヴンソンが読んだのはそれだと思われます(註7)。

註6藤蔵の墓は現在も残っています。藤蔵が4年後に勝五郎として生まれ変わったことになります。くわしくはネットでお調べください。「勝五郎の生まれ変わり」として、たくさんの記事が出ています。
註7スティーヴンソンの研究によりますと、そうした子供たちが示す行動には、「本当の親のところへ連れて行って」などと訴える事以外にも、死亡時の状況(およびそれと類似した状況)への恐怖があり、特定の乗り物や火や水、銃火器などへの恐怖が見られること、「前世」の人物と同様の食べ物や衣服の好き嫌い、前世と同じような発話や動作、前世の死に方に関連した先天性欠損(指の一本がないことなど)とか、あざ(母斑)などが見られることもあると言います。スチーブンソンの挙げている生まれ変わりのほとんど決定的とも言える証拠は、およそ喋れるはずのない外国語を話す子供のケースがあることです(真正異言)。

 「前世を語る・・・」で、特徴的なのは、大部分が子供たちによるもので、 スティーヴンソンもこの「勝五郎の生まれ変わり」の話に感銘を受け、この研究を始めたと言います。彼の研究態度は、きわめて慎重で、さまざまな可能性を考え、最後まで残されたものを、それらの可能性では解釈できないものとしているところに科学的良心が知られます。スティーヴンソンは、世界各地で調査し2600ものケースについて実地調査し、「前世を記憶する子どもたち」「前世を記憶する子どもたち2」には、厳選した、合わせて52例の生まれ変わりの事例が報告されています。彼の研究は「アメリカ精神医学雑誌」という一流誌でも紹介され、その科学的研究姿勢が高く評価されています。

 多くの生まれ変わりのケースに共通する性質として、事例のほとんどが幼児で、3歳くらいで突然「ぼくは生まれる前は・・・」と語り始め、7歳くらいまで続き、だんだんその話に触れなくなり、12歳にもなると、そんな話をしたことさえ忘れてしまうと言います。近年、NHKでも「生まれ変わり」に関する番組を制作し、放映するようになりました。まことに画期的なことだと思います。昨年の放映ではアメリカの少年のケースで、「僕はハリウッドで俳優をしていた。名前は・・・」と言い、実際に50年前の本人の写真や経歴まで突き止められました。

 ただ、これらの研究には問題もあることを留意しなければなりません。最近視聴したケースで印象的なのは、現在東京に住んでいる女の子のケースです。5歳のころ「私は阪神淡路大震災で死んだ・・・」と。あまりに不思議な話なので母親が詳細な記録を残していました。話の内容は具体的で「実家は淡路島の海の近くで魚屋をしており・・・向こうに橋が見え・・・」と言っています。しかし、NHKが現地調査した結果、どうしても場所が特定できませんでした。番組を見ながら、筆者はすぐに、「だれかの前世と混線しているな」と感じました。後にスティーヴンソンの研究を知りましたが、彼も「そういうことはありうる」と言っていました。前述のように、スティーヴンソンはこのような可能性を厳密に排除して、最後に残ったケースを「生まれ変わりだろう」と言っています。

 次回以降お話しますが、スティーヴンソンは、前回お話したブライアン・ワイスなどの退行催眠による前世療法については疑問を提出しています。

文献:「前世を記憶する子どもたち」 「前世を記憶する子どもたち2」(笠原敏雄訳 日本教文社」

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